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機械によるアクセシビリティチェックから垣間見えること

2012年7月3日(火曜日)

機械によるアクセシビリティチェックから垣間見えること

公開: 2012年7月16日15時25分頃

アライド・ブレインズからこんなプレスリリースが出ていますね……「国のホームページ約6割がJIS規格最低基準に満たず - 21の府省等で1万ページ以上の改善が必要 - (www.a-brain.com)」。

達成等級Aを満たせていないサイトが多いという話なのですが、よく見るとこんな事が書いてあります。

本調査は、弊社が開発した「全ページJIS検証プログラムAion(アイオン)」を用い、49サイトの公開されている全ページを対象に、JIS規格対応を調査しました。

Aionは、総務省が開発し広く一般に無償提供しているJIS規格対応検証ツールmiChecker(エムアイチェッカー)のチェック項目と基準で、公開されている全ページを一括で検証するものです。

要するに、機械でチェックしただけなのですね。機械チェックには以下のような限界があります。

よくあるタイプのチェックツールは、最低限のチェックだけして、判断できない部分は「判断できないので人間が見て判断してください」という旨の注意を促すような形になっていることが多いです。サイトの全ページ丸ごと機械にかけて終わり、というような使い方はできないようになっています。

というわけで、機械チェックだけで完結している調査は、全く意味がないとまでは言いませんが、話半分くらいに聞いておいた方が良いと思います。

本調査では、49の府省等サイトについて、平均56.5%のページでJIS規格の達成等級Aの対応に問題があることが確認されました。

また、21の府省等サイトで、達成等級Aに「問題あり」のページが1万ページ以上あることが確認されました。「問題あり」のページ数は、最も少なかったサイトで1ページ、最も多かったサイトで134,219ページでした。

達成等級Aに該当する25の達成基準の中で、特に「問題あり」のページの割合が高かったのは、以下2つの達成基準でした。(図1参照)

「問題あり」という表現なのは、機械チェックだけでは「等級Aを満たしていない」とまでは言い切れないという自覚があるからでしょう。それは良いと思うのですが、「サイト」と「ページ」が入り乱れていて意味が分かりにくいですね。おそらくこういうことだと思います。

全体のページ数が分からないので何とも言えませんが、それでも1万というのはなかなかの数でしょうし、134,219ページとなると凄い数のように思えます。しかし、さらに読み進むと以下のようなことが書いてあります。

達成等級Aに該当する25の達成基準の中で、特に「問題あり」のページの割合が高かったのは、以下2つの達成基準でした。(図1参照)

• 「7.3.1.1ページの言語に関する達成基準」29.2% ◦具体的な問題の例:音声読み上げソフトが正しく読み上げたり、ブラウザが正しく表示するために必要となる、ページ内で主に使用している言語の指定がない

• 「7.1.1.1非テキストコンテンツに関する達成基準」29.0% ◦ 具体的な問題の例:音声読み上げソフトの利用者に画像の内容を伝えるための「代替テキスト」がない等。

「7.3.1.1 ページの言語に関する達成基準」というのは、具体的にはHTML文書にlang属性がつけられていないケースです。ちなみにPDFの場合は「PDF 文書の文書カタログ内の /Lang エントリを使用してデフォルト言語を設定する (waic.jp)」という方法があり、これを怠っている場合にはNGとなります。

※そもそも、PDFはチェック対象でない可能性もあり、その場合はPDFだらけのサイトに有利な評価になっている可能性があります。

lang属性がついていないコンテンツが29.2%ある、というのは奇妙な話のように思えます。全ページに全くついていないのならまだ分かりますが、おそらくそうではなく、ついていないページが一部にあるという状態なのでしょう。しかも、それが3割近い数……となると、これ、サイトの一部に古いコンテンツがそのまま残っているのではないかと思います。

大規模なサイトリニューアルを行う際、良く問題になるのが古いニュースリリースなどのアーカイブです。コンテンツがそもそもアクセシブルでないことが多い上に、一度正式に発表したものですから、後から内容を変えることが難しいという問題があります。

そういったものを残すのか、それともばっさり切り捨ててしまうのか、という判断を迫られることは多いです。残す判断をする場合、新しいデザインに合わせて作り直すのか、合わせずにそのまま残すのかを判断することになります。残した場合、サイトの一部に古いHTMLが大量に残ることになり、lang属性がついていないコンテンツが万単位で存在することもあり得るわけです。

このようなケースのポイントは、古いコンテンツはそれほど重要ではないという点です。消してしまっても良いようなものにコストはかけられませんし、そんなお金があれば、新しいコンテンツに使った方が良いわけです。とはいえ、見たい人もいるかもしれないし、古いまま残してもそんなに害はないだろう、という判断をすればそのまま残す事になります。

※逆に、そのまま維持しても特にメリットがないので消す、という判断をすることもあります。

そんな判断で残したものを機械的なアクセシビリティチェックにかけると、どうなるかは分かると思います。

ここで注目しておきたいポイントは、コンテンツを消してしまった方が、機械的なアクセシビリティチェックでは有利になるということです。機械チェックは「本来は必要なはずのコンテンツがない」という判断はしませんから、単純にコンテンツが少なければ少ないほど有利になります。

とはいえ、それが悪いという話ではありません。機械チェックというのは元々そういうものなので、それを踏まえて結果を評価するべきだということです。要するに、機械チェックだけで完結している調査は、話半分くらいに聞いておけば良いということです。

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