水無月ばけらのえび日記

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2011年9月1日(木曜日)

企業の破綻は企業の消滅ではない

公開: 2011年8月28日22時25分頃

こんな記事が……ナンバーワン企業弁護士を激怒させた『東電救済法案』 久保利英明「私はなぜ東電と本気で闘うことを決めたのか」 (gendai.ismedia.jp)

福島第一原子力発電所事故後の東電のあり方を巡る議論で、久保利氏が真っ先に疑問に感じたのは「なぜ法的整理をしないのか」という点だった。

与野党の議員に対し、法案をまとめた官僚たちは、法的整理をすると「被害者への迅速・適切な賠償ができない」「電力の安定供給ができなくなる」といった説明を繰り返していた。若いころから倒産法に通じ、多くの企業の破綻処理に携わった経験を持つ久保利氏から見れば、「まったくの嘘」がまかり通っていたのだ。

「会社更生法は柔軟な法律で、裁判所さえ認めればかなり自由にできる。要はスキームの作り方次第。被害者への損害賠償が滞ることなどあり得ないし、電力供給が止まることなど考えられない」

これは確かに、言われてみればそうですね。たとえば、JAL (日本航空) も2010年の1月に会社更生法の手続を申請していますが、だからといって飛行機が飛ばなくなったりした訳ではありません。

企業の破綻、倒産、整理と言うと、企業が消滅して事業を継続できなくなるようなイメージが先行しがちです。確かに、事業の継続を断念して精算するという選択肢もあることはあるのですが、実際にそれが選択されることはあまりありません。多くの場合、きちんとした管理の下に再生を目指すことになります。債務超過だからといって即終了という訳でもありません。

東京電力もJALと同じように、きちんとした管理の下に再生を目指す、というのは別に変な話ではありません。まあ、株については諦めてもらうしかありませんが、原発の存在を知らずに投資したわけでもないでしょうから、そこを無理に保護する必要もないように思います。

関連する話題: 思ったこと / 原子力 / 経営

不況は人災です!

公開: 2011年8月28日21時50分頃

読み終わったので。

日本を襲う不況の原因は構造改革と金融引き締めにあるとし、政策のミスが招いた人災であるとする主張です。景気回復に見えたものは製造機械が寿命を迎えた事によるリプレースのための投資であり、需要の回復による景気回復ではなかった (小売販売は増えなかった) のに、日銀の強気な引き締めでまた不況に舞い戻ってしまったという。

デフレ不況のメカニズムについては、流動性選好と流動性の罠、需要不足によるものというニュー・ケインジアンの立場を踏襲していて、新古典派の理論については批判的です。新古典派について、135ページでは以下のように述べられています。

いずれにせよ、世界の中堅・若手の経済学者が、入門段階の学生に教えている標準理論は、もはや新しい古典派のものではないわけです。

しかし、学問の最先端を担っている世代はまだ若すぎて、マスコミにも知られていないし、政府の審議委員にもなれていません。構造改革時代の世論と政治に影響力のあった経済学者は、かつて新しい古典派が押せ押せで快進撃していたころのアメリカに、新進気鋭として留学し、当時の最先端の動向を持ち帰った世代です。1970年代の大インフレを打開するための革新的な理論が、時間をかけてようやく世論に浸透し、政治を動かせるようになったときには、既にそれとはまったく逆のデフレ不況時代になっていたというわけです。学問自体はとっくにその次の段階に進んでいるのですが、まだまだそれは世間には知られていないのです。

以上、p135 より

途中の説明はグラフなどを多用して、非常に分かりやすいものになっています。ただ、最後の施策については、若干腑に落ちないものが残りました。基本的には「日銀がどんどんお金を刷れば良い」という話で、日銀にできなければ政府が百兆円玉 (!) を発行しても良いという冗談半分の話も出ているのですが、無から有を生み出せば解決する、というのはあまりにもうまい話すぎて、怪しく思ってしまいます。何か問題が起きたりしないのかどうか、もう少し丁寧な説明で不安を取り除いてもらえると良かったと思いました。

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