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潮流発電と思いきや永久機関

2012年2月29日(水曜日)

潮流発電と思いきや永久機関

公開: 2012年3月11日14時15分頃

こんな記事が……「海をダムに見立て発電 神大院教授が構想発表 (www.kobe-np.co.jp)」。

原発事故に伴う電力不足が懸念される中、神戸大学大学院海事科学研究科の西岡俊久教授(63)が「海洋エネルギーを活用した大規模発電装置の仕組みを発明した」と発表した。海を巨大ダムに見立て、海中で水力発電を行うという独創的なアイデア。理論的には原子力をはるかに上回る発電が可能といい、国際特許を申請している。(今泉欣也)

反射的に、潮流発電を効率的に行う方法かな、と思いました。海には潮の流れがあるので、その流れを利用して発電する「潮流発電」というのは実際にあります。たとえば、関門海峡で実証実験が行われています。

発電に適するような場所があまりなかったり、船の行き交うところに発電施設を置くのが難しかったりと、課題も多いようです。イギリスでは既に商用化されているという話も出ていますね。

潮流発電以外にも、潮の満ち引きを利用したり、波を利用したりする発電はあります。それぞれ課題があり、大規模に効率よく発電することは今のところできていませんが、それをうまくやる方法があればエネルギー問題の解決に寄与するかもしれません。

……などと思いをめぐらせながら続きを読むと……。

海洋発電装置は、大型船のような海上浮遊物と海中の発電機2基、海中の配管で構成される。

まず、海水が海上浮遊物に付設した配管に入り、水の勢いでタービンを回して発電。海水はその後、潜水艦のような耐圧容器に入った海中に向けて配管内を落下し、発電機のタービンを回す。電気は海底ケーブルなどから陸上に送電し、海水はモーターを使って容器外に排出する。

「海水はモーターを使って容器外に排出する」。

えっ?

そのモーターは電力で動かすのですよね。

……。

まあ、一言で言えば、永久機関ですね。

この装置が動き続けるためには、深海で水を排出し続ける必要があります。水圧の高い深海で、水圧に逆らって排水するには大きなエネルギーが必要です。最低でも、同量の水を海面まで持ち上げるのと同じだけのエネルギーが必要になります。

教授はこんなことを主張しますが……。

発電量は水の流量と落下の高低差で決まり、「例えば、海中の発電機が深さ千メートルであれば原発千基分(1基分の発電量約100万キロワット)の電気を作り出すことも可能だ」と強調する。

たしかに、落差が大きくなれば発電量は増えるでしょう。と同時に、排水する場所の水深が深くなります。そして、排水に必要なエネルギーも大きくなります。

あとは分かりますね。

この装置は電力を消費して発電します。そして、常に発電量よりも消費電力の方が大きくなります。海水を使った巨大なオブジェとして、芸術の観点から評価することは可能かもしれませんが、エネルギー問題を解決できる可能性は全くないでしょう。

西岡教授は、破壊動力学の第一人者。物体に亀裂ができるメカニズムを解明するなどし、文部科学大臣科学技術賞、兵庫県科学賞などを受賞している。

大学教授と言っても、完全に専門外の方ですね。

しかし、周囲の人々は止めなかったのでしょうか。結果的に、神戸大学の理科離れを象徴するようなエピソードになってしまっていますが……。

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