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キヤノンはなぜ達成等級「A」を満たせなかったのか

2011年12月27日(火曜日)

キヤノンはなぜ達成等級「A」を満たせなかったのか

公開: 2012年1月9日15時40分頃

キヤノンのサイトで、JIS X 8341-3:2010の試験結果が公開されたようで。

目標の達成等級は「A」で、一部準拠という結果。JIS X 8341-3:2010の達成基準はWCAG2.0と同じもので、等級は「A」「AA」「AAA」の3つがあります。「A」は最低限の達成等級であり、どのサイトも必ず満たさなければならないとされるものですが、それが完全には満たせなかったという結果です。けっこう驚きですね。

達成基準を満たしていない点については、以下のように述べられています。

達成基準7.2.4.1 ブロックスキップの実装において、当ウェブサイトではWCAG 2.0実装方法集の「H69: コンテンツの各セクションの開始位置に見出し要素を提供する」を選択しています。

本基準を満たすためには、「G1: メインコンテンツエリアへ直接移動するリンクを各ページの先頭に追加する」を実装し、H69と併用する必要があると考えられますが、今回の対応範囲にのみ実装した場合、当ウェブサイト全体との整合性においての問題が生じるため、現時点ではこの方法を実装しておりません。

今後は、以下のスケジュールにあわせて適切な実装方法を検討の上、対応時点で必要と考えられる方法を実装する予定です。

以上、キヤノン : ウェブアクセシビリティーについて より

満たせていないとされるのは「7.2.4.1 ブロックスキップに関する達成基準」です。JIS X 8341-3:2010では、以下のように書かれています。

7.2.4.1 ブロックスキップに関する達成基準

複数のウェブページ上で繰り返されているコンテンツのブロックをスキップできるメカニズムが利用可能でなければならない。

注記 この達成基準は,等級A の達成基準である。

以上、JIS X 8341-3:2010 7.2.4.1 より

……これで全てです。これだけではさっぱり分からないと思いますので、対応するWCAG2.0の解説を参照することをお勧めします。JIS X 8341-3:2010の達成基準7.2.4.1は、WCAG2.0の2.4.1に対応します。

ここで注意する必要があるのは、何らかの方法でブロックスキップができれば良いということです。

たとえば、スクリーンリーダーの中には、「次の見出しまでスキップする」という機能を備えたものがあります。その場合、コンテンツ側でスキップリンクを設けなくても、利用者はその機能を使ってヘッダやナビゲーションをスキップすることができます。

Techniques for WCAG 2.0 (www.w3.org)でも、見出しを設けることで2.4.1を達成するという方法が挙げられています。

そしてキヤノンのサイトでは、まさにこの方法を採用しているわけです。

これでブロックスキップに関する達成基準は満たしている、と考えることも可能でしょう。しかし、この試験を実施した方は、そうは考えませんでした。それは何故かというと、おそらく「アクセシビリティ・サポーテッドでない」と判断されたからでしょう。

「見出しがあればスキップできる」というのは理論上は正しいのですが、実際にブラウザや支援技術によってサポートされているのか、という問題があります。見出しジャンプの機能を実装しているブラウザや支援技術が少なければ、多くの利用者はその機能を利用できませんから、そのコンテンツがアクセシブルであるとは言いにくくなります。

ある方法でコンテンツのアクセシビリティを担保しようとしたとき、その方法が実際にブラウザや支援技術によってサポートされていることを、「アクセシビリティ・サポーテッドである」といいます。ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) (waic.jp)では、Techniques for WCAG 2.0で挙げられている実装方法のそれぞれについて、実際にアクセシビリティ・サポーテッドであるかどうかを調査し、その結果を公開しています。

単純なテスト結果だけでなく、解説も随時公開していて、現在は等級「A」についての簡単な解説が出そろった状態です。7.2.4.1も等級「A」ですので、解説があります。

ここではH69 (見出しを提供) だけでは駄目で、G001 (スキップリンクを設ける) を併用する必要があるとしています。その理由は、H69に対応していないブラウザが多いためです。

スクリーンリーダーには見出しジャンプ機能に対応したものが多く、H69だけでほとんど対応可能です。しかし、この達成基準の対象は、スクリーンリーダーの利用者だけではありません。マウスが使えずにキーボードを利用しているような利用者を考えると、そのような利用者は見出しジャンプ機能を使えず、ナビゲーションをスキップするためにはTabキーを連打しなければならないことになります。

そして現状では、スクリーンリーダーを導入しない限り、ほとんどのブラウザは見出しジャンプに対応していません。ですから、現時点では見出しジャンプはアクセシビリティ・サポーテッドではなく、スキップリンクが必要という判断をしているわけです。

しかし個人的には、コンテンツ側でスキップリンクを設けるのはスジが悪いと思っています。誰もが必要とする機能ではありませんし、必要としない人には邪魔になってしまい、ユニバーサルなデザインではありません。できれば、ブラウザ側で見出しジャンプに対応してほしいと思います。

ブラウザや支援技術の実装は時と共に改善されていく場合があり、アクセシビリティ・サポーテッドの状況も時と共に移り変わります。上で挙げたTechniques for WCAG 2.0も2011年9月に改訂されていて、FirefoxのAddonで見出しジャンプができるといった情報が追加されています。

ということで、今後に期待したいところです。

関連する話題: Web / アクセシビリティ / スキップリンク

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