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資源の少ない日本と核燃料サイクルの現状

2011年4月13日(水曜日)

資源の少ない日本と核燃料サイクルの現状

公開: 2011年4月16日23時10分頃

こんな記事が……「アメリカが福島第一の「4号機」に注目する背景には「使用済み核燃料問題」があるのでは? (www.newsweekjapan.jp)」。

ちなみに、アメリカの原子力政策は日本とは異なります。日本の場合は「核燃料サイクル」の完成が国策でした。使用済み核燃料は数年間プールで水による冷却をして後、特殊な金属容器に入れて「中間貯蔵」をして更に冷却、その後に再処理工場でウランとプルトニウムの混合である「MOX燃料」に再生するという考え方です。そのための中間貯蔵施設はまだ未完成ですし、再処理工場も完全に稼働はしていませんが、考え方はそうです。

以上、アメリカが福島第一の「4号機」に注目する背景には「使用済み核燃料問題」があるのでは? より

核燃料サイクルは原子力政策を考える上で重要なポイントだと思いますが、意外に知らない人が多いようにも思います。

ずっと昔は、原子力推進のキーワードとして、「日本には資源がない」ということが盛んに言われていました。しかし冷静に考えると、日本ではウランはほとんど採れませんから、ウラン資源だって海外に頼らざるを得ないはずです。原子力が世界に普及すれば、ウランの枯渇も問題になってきます。

では、何が資源問題の解決になるのかというと、それが核燃料サイクル、その中でも特に「高速増殖炉サイクル」と呼ばれるものです。MOX燃料を高速増殖炉で使うことにより、ウラン238からプルトニウムを作り出すことができます。核燃料のウラン235は天然ウランにわずかしか含まれていませんが、ウラン238はたくさんありますので、これがうまく行けば資源問題の解決につながります。だから日本では核燃料サイクルが重要とされていたのです。

2005年の原子力政策大綱 (www.aec.go.jp)では、この高速増殖炉サイクルを2050年頃に実現させることを目標にしています。

3.高速増殖炉については、軽水炉核燃料サイクル事業の進捗や「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」、「もんじゅ」等の成果に基づいた実用化への取組を踏まえつつ、ウラン需給の動向等を勘案し、経済性等の諸条件が整うことを前提に、2050年頃から商業ベースでの導入を目指す。なお、導入条件が整う時期が前後することも予想されるが、これが整うのが遅れる場合には、これが整うまで改良型軽水炉の導入を継続する。

以上、原子力政策大綱 より

この目標設定は、1995年の「もんじゅ」ナトリウム漏れ事故を踏まえたものです。もんじゅは2010年に運転を再開しましたが、同年8月に炉内中継装置が炉内に落ちて抜けなくなるという事故が起きて止まっています。今も装置は引き抜けておらず (24回チャレンジして全て失敗)、立ち往生している状態です。

想定どおりに動いている分には良いのですが、ひとたび想定外のことが起きると非常に面倒なことになる……というのは原子力全ての弱点だと思いますが、高速増殖炉は特にそれが顕著です。トラブルが起きるたびに、扱いにくいナトリウムの冷却剤が立ちふさがります。

技術的な問題を一つずつ解決していけば、と言いたいところですが、実はフランスの高速増殖炉スーパーフェニックスもずっと前に止まっているわけで、高速増殖炉という技術そのものが課題を抱えているようにも思えます。本当にこのまま進んで行けるのか疑問ですし、少なくとも、2050年までに高速増殖炉サイクルを実現できる可能性は低いと見ざるを得ない状況だと思います。

核燃料サイクル全体ではどうかというと、使用済み核燃料を再処理してMOX燃料を作るところまではできています。が、現在はもんじゅが止まっているので、MOX燃料を使う高速炉がありません。それでもあくまで再処理は続けられていて、MOX燃料を既存の炉で使うということをやっています。それが「プルサーマル」です (プルトニウムをthermal-neutron reactorで使うからプル・サーマル)。

通常の軽水炉でも、ウラン238が中性子を吸収してプルトニウムに変化し、さらに核分裂するという反応は起きています。ですからプルトニウムを使うこと自体は可能なのですが、そうは言っても大量のプルトニウムを入れることはできませんから、通常のウラン燃料にMOX燃料を少しだけ混ぜる形で使っています。ウラン燃料の多少の節約はできていますが、これはMOX燃料の本来の用途とはかけ離れたものです。

こういう現状が認識されているからでしょうか、最近は「日本には資源がないから原子力が必要」という話はほとんど聞かなくなってしまいました。かわりに出てきたのが、「原子力はCO2排出量が少ない」という議論です。

ところがつい最近、「日本には資源がないから」という議論を久しぶりに目にしました。

東京都の石原慎太郎知事が福島県災害対策本部を訪れ、佐藤雄平・福島県知事と会談しました。会談後、石原氏は報道陣に「私は原発推進論者です、今でも。日本のような資源のない国で原発を欠かしてしまったら経済は立っていかないと思う」。

以上、http://twitter.com/asahi_fukushima/status/51194755857653760 より

日本はウラン資源のない国なのですが、それでも経済が立っていくという認識なのでしょうか。それとも、高速増殖炉サイクルを完成させることを前提としているのでしょうか。核燃料サイクルの現状についてどのように認識されているのか、聞いてみたいところです。

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