2017年7月
2017年7月13日(木曜日)
WCAG 2.0の「非干渉」とは何か?
公開: 2017年7月13日16時45分頃
7月11日に、「WCAGもくもく会 #1 (ca11y.connpass.com)」というイベントが行われました。
WCAG 2.0と関連文書の日本語訳をひたすら読むという趣旨でしたが、さまざまな感想やフィードバックをいただけて大変参考になりました。その感想の中のひとつに、「非干渉」についての話がありましたので、少しコメントしておきます。
非干渉が難解
— Toshiaki Otsuka (@otk2) 2017年7月11日 (twitter.com)
#a11ymoku2 (twitter.com)
「非干渉」とは何かという話ですが、「非」干渉と言っているわけですから、その前提として「干渉」という概念があります。では「干渉」とは何かということですが、私なりに簡単に言えば、「そのコンテンツにアクセスできないだけでなく、他のコンテンツにも干渉してアクセスできなくしてしまうこと」ということになります。
多くの場合、アクセシブルでないコンテンツがあっても、単にその部分が読めないだけであり、他の部分を読めなくしてしまうことはありません。たとえば、アクセシブルなテキストで構成されたWebページの中に、一箇所だけ、適切な代替テキストがついていない (アクセシブルでない) 画像が含まれている場合を考えてみましょう。画像に適切な代替テキストがないため、スクリーンリーダーのユーザーは画像にアクセスできません。これは問題ですが、その画像が無視しても差し支えないものであれば、他のテキスト部分は問題なく読むことができます。
しかし中には、他の部分を読めなくしてしまうような問題もあります。代表的な例は「閃光」です。画面が激しく点滅していると、ユーザーは発作を起こすおそれがあるとされます。Webページ全体が激しく点滅する場合、コンテンツにアクセスできないユーザーがいるのは明らかです。では、Webページの一部分だけが激しく点滅し、他の大部分は点滅しないアクセシブルなコンテンツである、という場合はどうでしょうか。閃光を放つコンテンツが無視してよいものであったとしても、ユーザーがそれを見て発作を起こしてしまえば、他の部分を読むことはできなくなるでしょう。
このようなものが「干渉」で、WCAG 2.0では以下の4つが干渉を起こすとされています。
- 音声の自動再生: 音声が勝手に再生されると、スクリーンリーダーの読み上げの音声をかき消してしまい、スクリーンリーダー利用者は何も操作できなくなることがある。こうなると他のコンテンツにもアクセスできなくなる (達成基準 1.4.2 音声制御 (waic.jp))
- キーボードトラップ: キーボードフォーカスがコンテンツのどこかに閉じ込められて脱出不可能になると、キーボード操作では他の部分にアクセスできなくなる (達成基準 2.1.2 キーボードトラップなし (waic.jp))
- 閃光: ページの一部が閃光を放つと、発作を起こしたユーザーは他の箇所にアクセスできなくなる (達成基準 2.3.1 3回の閃光、又は閾値以下 (waic.jp))
- 動き続ける要素: 画面の一部に動き続ける要素があると、注意力欠如障害のあるユーザーなどは、動く要素に気を取られてしまい、他の部分を読むことができなくなる (達成基準 2.2.2 一時停止、停止、非表示 (waic.jp))
このような問題があると、たとえそれがごく一部であり、無視してよいものであったとしても、他の部分にアクセスできなくなってしまいます。そのため、WCAG 2.0の適合要件には「非干渉」という要件があり、干渉を起こすようなコンテンツがあれば、それが無視してよいコンテンツだったり、代替ページがあったりしても適合できないことになっています。
5. 非干渉: 技術がアクセシビリティ サポーテッドではない方法で用いられている場合、又は適合しない方法で用いられている場合、利用者がウェブページの他の部分へアクセスすることを妨げていない。
以上、WCAG 2.0 適合 - 5. 非干渉 より
分かりにくいと思いますが、要するに、無視して良いようなものであっても干渉したらNGということを言っています。
※余談ですが、私がJIS X 8341-3:2016原案作成委員会に参加して訳語の見直しを行った際、「非干渉」は分かりにくいと感じた訳語ワースト3に入っていました。ちなみに他の2つは「中断」と「頑健」で、これらは訳語を変更しています。「非干渉」については、より良い訳語が思いつかなかったため、そのまま残ってしまいました。
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