2012年4月6日(金曜日)
鷺と雪
公開: 2012年4月12日0時50分頃
いつのまにか文庫本が出ていたという。
- 鷺と雪 (www.amazon.co.jp)
ベッキーさん三部作の最終刊であり、直木賞受賞作でもあります。
これはなかなか凄いというか、前2巻で描かれたさまざまなものが全てがラストの一点に収束していく感じが凄いですね。そのラストも、最後の一行で一気に全てが分かるような仕組みで感嘆しました。
作品も良いのですが、実は巻末の解説もなかなか良くて、作中のエピソードのいくつかが実話をヒントに作られているという話があって興味深かったです。特に、最後のエピソードはとある実話をヒントに構成されたということで、全体がここに向けて書かれていたということがよく分かります。
なかなか感慨深い読後感でした。
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ウェブデザインとはいったい何なのか
公開: 2012年4月11日1時25分頃
「首相官邸ホームページのリニューアル構築費用に対して製作者側からの考察 (7dw.jp)」というブログ記事を書かれている方がいらっしゃるようで。
申し訳ないのですが、最初から最後まで同意できない部分の方が多いですね。特に看過できないのがアクセシビリティの部分で、これは既に複数の方からツッコミが入れられています。
- Re: 首相官邸ホームページのリニューアル構築費用に対して製作者側からの考察 (kidachi.kazuhi.to)
- Kotaro Kokubo - Google+ - 最近「デザイン」という言葉のひどい扱いを頻繁に目にしていたたまれない気持ちになって いたところにダメ押しのような某… (plus.google.com)
「アクセシビリティに配慮すると、ビジュアルデザインが制約を受ける」「ビジュアルデザインとアクセシビリティは両立しない」というのは誤りだと断言して良いと思いますが、実は昔はそういう誤解をしていた人がけっこういました。
きちんと両立できるような制作者は、「アクセシビリティへの対応は当然のことなので、わざわざアピールするようなものではない」と考えていましたし、逆に、アクセシビリティを積極的にアピールする会社はビジュアルデザインが弱い傾向にありました。そんな事情から、サイトの表面しか見えない人は「アクセシビリティに力を入れるとデザインがしょぼくなる」と誤解しやすかったのではないかと思います。
しかし2004年、JIS X 8341-3の最初の版が交付された年にはアックゼロヨン・アワード (www.acc04.jp)が始まりました。このアワードは、ビジュアルデザイン表現とアクセシビリティの両方を評価軸に入れています。アクセシブルでありながらデザイン的に優れたサイトが表彰されるというわけです。このアワードを通じて、「ビジュアルデザインとアクセシビリティは両立するのだ」ということを理解した人も多かったのではないでしょうか。
残念ながら、アックゼロヨン・アワードは第五回を最後になくなってしまいました。その影響もあって、また誤解が増えてきているのかもしれませんね。
ところで、アクセシビリティについての誤解とは別に、気になった点があります。それは「デザイン」についての部分です。
提案時には、デザイン案も複数パターン求められる事も普通で、デザイン案を提出する、という事は、デザインの背景にある情報設計もかなりの精度で終わってなければいけません。要はほとんど構築と変わらないような作業が必要です。
これは結構びっくりしました。「提案時には、デザイン案も複数パターン求められる事も普通」とあっさり書かれていますが、普通なのでしょうか?
今は官邸のサイトの話をしているわけですから、それなりの規模のサイトを制作するという想定で話をしているはずです。となると、提案時にはビジュアルデザインは1案も出さないのが普通でしょう。その規模のサイトになると戦略や設計が先にあるはずで、それがなければビジュアルデザインに入れないからです。
そうは言っても、ビジュアルデザインを見たい、ビジュアルがないと何もイメージできない、と言われることはまああります。ですので、暫定で仮のデザインを作成して、後で変わるという前提で見せることはあります。しかしその場合でも、複数の案を出すことはまずありません。社内のスタディ時に複数出ていることはあっても、提案時には必ず1案に絞ります。
なぜだと思いますか?
逆に、複数案を出したらどうなるのかを考えてみれば良いと思います。
クライアントは複数の案を見て、そこから1つを選ぼうとするはずです。しかし、どうやって選ぶのでしょうか。クライアントはWebデザインのプロではありませんし、この段階ではまだ戦略や設計はやっていません。となると、ほぼ間違いなく、個人の好みで選ばれてしまうでしょう。なぜそちらを選んだのか、と質問すれば、一応それらしい答えは返ってくるでしょうが、それは調査に基づいたものでもなければ、論理に裏打ちされたものでもないはずです。
担当者のためにサイトを作るわけではありませんので、担当者個人の好みに合わせてデザインすることはありません。ですから、複数案を出して選ばせるようなことはしませんし、求められても原則として断ります。
※ちなみに、複数案を出さない理由はこれだけではなく、他にもいくつかあります。機会があればまた書くかもしれません。
これがもし芸術作品で、芸術家の自己表現の場なのであれば、好みで選ぶのはいっこうに構わないと思います。あるいは、個人サイトや、個人商店のサイトだったら、それは個人の好みに合わせてデザインしても構わないでしょう。しかし、ここで話題にしているのはそういうサイトではありません。発注担当者の好みに合わせるべきではないはずのものです。
ですから、この方が「提案時にデザイン案を複数パターン」という話を想定されていることについて、結構な驚きを感じたわけです。
ここで、この話を踏まえて、もう一度「アクセシビリティはビジュアルデザインの制約になるか」という話について考えてみると、ちょっと違った見方ができることに気づきます。冒頭に誤りだと断言したものについて、少し付け足してみるとどうでしょうか。
- 「アクセシビリティに配慮すると、担当者の好みに合わせたビジュアルデザインが制約を受ける」
- 「担当者の好みに合わせたビジュアルデザインとアクセシビリティは両立しない」
なんと、こうすると急に正しいように思えてきます。アクセシビリティに配慮すると、確かに担当者の好みに合わないものになる可能性があるでしょう。それはそのとおりです。
結局のところ、一口に「ウェブデザイン」と言っても、人によってそのとらえ方が根本的に異なるという話なのかもしれません。
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