A3その4: 弟子の暴走はあったのか
2011年9月13日(火曜日)
A3その4: 弟子の暴走はあったのか
公開: 2011年9月19日17時40分頃
A3 (www.amazon.co.jp)について、その4です。その3からの続きです。
「A3」では、マハームドラーという考え方が犯罪行為に結びつきやすいと指摘した上で、地下鉄サリン事件に至る経緯に迫っていきます。その中で著者は、教祖が一人で暴走したのではなく、周囲の信者に暴走があったのではないか、と問いかけます。
教祖がなにがしかの命令を下したとして、その命令を解釈して実行するのは周囲の信者です。周囲の幹部たちが、教祖の意図を過度に
早川紀代秀氏の答えはNOでした。グルは強権を持ち、細かい修行のやり方や教団の運営実務に至るまで、具体的な指示をしていたと指摘されます。
弟子はグルから言われたことを行ってはじめて修行になるのであり、修行をして解脱・悟りに達しようとして出家をしているわけですから、自分の行うべき事を具体的にグル麻原に指示をしてもらわない限り、何もできないのです。
(~中略~)
オウムは宗教団体であり、その信仰はグル麻原への信仰であり、グルからの具体的な指導を求めて、サマナは出家しているということを見落とさないでください。
以上、A3 p171 より
しかし、林泰男氏 (林郁夫氏ではないので注意) の意見は少し異なります。
逮捕されたサマナたちが法廷で証言するように、ワンマンで絶対者的なときもありましたが、その逆のことも多かったです。弟子の意見をそのまま鵜呑みにして採用し、つまり弟子の言いなりになっているようなときもありました。
以上、A3 p427 より
どちらが真実なのかという話ではなく、どちらも真実の一面なのでしょう。
また後半では、麻原氏に対して情報をインプットするのは周辺の信者だということが指摘されます。
上九の施設にいた村井が、たまたま上空を飛ぶヘリコプターを目撃したときに、あわてて麻原に「米軍のヘリコプターがサリンを撒きに来ています」と報告したことは、前々回の連載で書いた。目の見えない麻原は、新聞やテレビなどのメディアに直接触れることができないから、側近から伝えられた情報の虚偽の判定が自分ではできない。人の心を見抜き、森羅万象に対しての予知能力もあるということになっているのだから、報告や情報の虚偽の判定を誰かに委ねることなどあってはならない。
以上、A3 p463 より
この指摘の後、怒濤の勢いで結論へと収束していきます。最終的に著者は、教祖と周辺との相互作用によるものだという結論を導き出しています。エピローグでは、中川智正氏との以下のようなやりとりが紹介されています。
「一連の犯罪について、麻原は弟子たちのレセプターだったというような気がしています」
「レセプターですか。同感です」
「そして弟子たちも」
「はい。麻原氏は弟子たちのレセプターであり、そして弟子たちもまた、麻原氏のレセプターだったと思います。もちろん私も含めてです」
以上、p521 より
「弟子たちの暴走」と言うと、教祖に責任はないという主張のように聞こえるかもしれませんが、A3が主張しているのはそういうことではないでしょう。
輪廻転生と「マハームドラー」という考え方。最終解脱者であり全能だということになっている教祖。修行と救済の活動に励むことになっている弟子たち。そういったシステムの中に暴走を食い止める機構はなく、むしろ増幅していく作用があったのではないか。システムそのものに危険性が内包されているのではないか。そういう指摘がなされていると、私は感じました。
そして考えたいのは、これがオウムに特有の事情と言えるのかどうかという点です。オウムの外にいる我々にはまったく縁のないことなのかどうか。システムの危険性を見抜き、指摘することができるのかどうか。そういったいろいろなことを考えさせられます。
まだ少しだけ続くかもしれません。
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