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究極のエコ? ピンポン球水力発電

2011年6月24日(金曜日)

究極のエコ? ピンポン球水力発電

公開: 2011年7月3日23時0分頃

産経新聞のこんな記事が話題に……「究極のエコ! 重力と浮力で発電する装置をさいたまの80歳男性が開発 (sankei.jp.msn.com)」。

東日本大震災でエネルギー政策の転換が叫ばれる中、重力と浮力だけを利用して電気を発生させる装置をさいたま市浦和区の会社役員、阿久津一郎さん(80)が発明した。パチンコ玉を内蔵したピンポン球を高い位置から落として歯車を回して発電、水の入ったパイプの中で球を再び浮力で上昇させて循環させるもので、平成22年10月に特許を取得した。実用化されれば、天候や時間に左右されない“究極の自然エネルギー”として注目を集めそうだ。(安岡一成)

以上、究極のエコ! 重力と浮力で発電する装置をさいたまの80歳男性が開発 より

産経新聞……。これが「究極のエコ?」という見出しならともかく、「究極のエコ!」という見出しなのですから、フォローのしようがありません。「浮力を使った永久機関 (homepage3.nifty.com)」というアイデアは、既出ですが不可能です。もちろんこの装置も永久機関であるはずがなく、からくりがあります。

装置には水位を保つために、ピンポン球の体積分の水が出し入れされており、1つの球は約3分間隔でこの循環を繰り返す-という仕組みだ。

以上、究極のエコ! 重力と浮力で発電する装置をさいたまの80歳男性が開発 より

水を出し入れしているわけです。図を見ると、高い位置に給水タンクが備えられています。ここに水を定期的に補充する必要があるのでしょう。高い位置に水を持っていく必要があるということは、水の位置エネルギーを消費して動くものと思われます。

ちなみにこの特許の内容、特許・実用新案公報DB (www.ipdl.inpit.go.jp)で確認することができます。しかし、frameを駆使した読みづらい構成の上に、特定の特許公報にリンクすることもできない構造のようで、もう心の底から残念な思いをいたしました。

幸いなことに、特許データをもっと読みやすい形で提供しているサービスがありますので、こちらを見るのが良いでしょう。

細かいところまでは分かりにくいですが、はっきりと読み取れるのは、ピンポン球1個が落下するとき、ピンポン球1個分の体積の水が捨てられるということです。減った水は、装置の上部に設けたタンクから補給する必要があります。つまり、ピンポン球1個を持ち上げるのと引き替えに、ピンポン球1個分の体積の水を下におろしていることになります。

そしてこのピンポン球は水に浮きますから、持ち上がるピンポン球よりも下ろされる水の方が重いことは自明です。羽根を回して発電するなら、ピンポン球ではなく、水を直接当てた方が効率が良いでしょう。水で羽根を回して発電するような仕組みは既に実用化されていて、一般には水力発電と呼ばれています。

というわけで、「エコ」という観点で見ると、この装置は水力発電にかないません。この装置が水力発電と違うのは、ピンポン球が動いたり、音が出たりするのが楽しいという点でしょう。産経新聞は、エコではなく楽しさを打ち出す記事を書いた方が良かったのではないかと思います。

関連する話題: 科学 / 思ったこと / 特許 / ピンポン球水力発電 / 永久機関

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