水無月ばけらのえび日記

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崩壊と半減期

2011年3月28日(月曜日)

崩壊と半減期

公開: 2011年4月2日21時45分頃

既に削除されていますが、http://twitter.com/ikedanob/status/52400301336035328 にこんなツイートがありました。

「マッチ箱」の話は、ヘリコプターからプルトニウムをばらまいて東京都民が吸い込んだら、分子1個でも死ぬという話で、現実的なリスクではありません。でもそれぐらい強力な毒性があるということ。

分子1つで影響が出るという話は明らかに怪しく、まるでホメオパシーです。もっとも、このツイートはすぐに削除されていますし、べつに糾弾したいわけではありません。私が興味深いと思ったのは、一瞬であれ「分子1個で死ぬ」と思ってしまう人がいるというところです。ふと思ったのですが、1つの原子が永遠に放射線を出し続けるものと誤解されているのではないでしょうか?

放射性元素は崩壊して放射線を出し、別の元素に変わります。ですから、原則として1つの原子が放射線を出す機会は1回だけです。崩壊でできた娘核種がさらに崩壊するというパターンもありますが、いずれにしても無限に放射線を出し続けることはありません。あらゆる放射性物質は、崩壊によって自然に量が減って行くのです。

その崩壊はランダムに発生するのですが、崩壊のしやすさは核の種類によって決まっていて、減りの速さも決まっています。この減りの速さを表すのが「半減期」です。「ヨウ素131の半減期は8日だから……」という話を良く聞くと思いますが、これは、8日間放っておくとだいたい半分くらいが崩壊するという意味です。

プルトニウムの代表格であるプルトニウム239の場合、半減期はおよそ2万4千年です。プルトニウム239の原子が1つあったとき、2万4千年の間に崩壊するかしないか半々の確率です。プルトニウムの原子を1つ吸い込んでも、人が生きている間に崩壊する可能性はかなり低いと言えるでしょう。崩壊したとしてもアルファ線が1回出るだけですから、それで何か劇的な変化が起きることはありません。

また、半減期がそれだけあるということは、過去の核実験で放出されたプルトニウムがいまだに生きて環境中に存在しているということでもあります。既に、ほとんどの人が微量のプルトニウムを吸い込んでいるはずです。

……と書くとプルトニウムが安全であるように思えるかもしれませんが、そうでもありません。微粒子の中にも、膨大な数の原子が含まれています。ちゃんとは計算していませんが、原子1000兆個で0.0004mgというくらいのオーダーです。原子1つは数万年に1回しか放射線を出しませんが、数が集まれば常に放射線が出続ける状態になります。それなりの量を吸い込むと危険ということです。

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