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2011年7月25日(月曜日)

イカタコウイルス (タコイカウイルス) の話

公開: 2011年7月30日16時55分頃

こんな話が……一部で「イカタコ被告人はGeorge Hotz同様に企業が雇うべき」論が挙がる (slashdot.jp)

この作者は昔にもウイルスを作っていて、それは俗に「原田ウイルス」と呼ばれています。

※「原田」というのは作者の知人の名前ですし、ウイルス作者が命名した名前をそのまま使用するべきではないという話もあるのですが、既に「原田ウイルス」で通ってしまっていますので、ここでもそう呼ぶことにします。

原田ウイルスの内容については、トレンドマイクロのブログの記事が参考になります。

一般にはファイルの破壊を行う挙動が知られていますが、情報を収集して外部に送信するタイプのものもあったそうで。

また、興味深いのは、まずウイルス (トロイの木馬) を生成する「P2P-DESTROYER」と称するツールを作って、そのツールでたくさんの亜種を作ったらしいという点です。作者はそのツールの配布もしていたようですが、「ウイルス頒布の院生、著作者人格権侵害で起訴、名誉毀損容疑で再逮捕 (slashdot.jp)」によると、作者本人以外にそのツールを使った人はいなかったようです (と、読売が報じたらしい、とスラッシュドットに書いてあった、というひどい又聞きではありますが)。

作者は結局、逮捕されて有罪判決を受けました。

柴田厚司裁判長は判決の理由について、大学院生は2007年11月上旬に同級生の顔写真などの画像を使用したウイルスを作成し、Winnyネットワークなどを通じて不特定多数にダウンロードさせたことが、被害者の名誉を毀損したと認定。また、同じくテレビアニメ「CLANNAD」の画像を著作権者の許可無く使用したウイルスを作成し、Winnyネットワークを通じて不特定多数にダウンロードさせたことが、著作権侵害にあたるとした。

以上、Winnyの「原田ウイルス」作者に、懲役2年・執行猶予3年の有罪判決 より

普通に考えるとトロイの木馬を作って配布したこと自体が犯罪のように思えますが、逮捕当時はいわゆる「ウイルス罪」がまだ存在しなかったため、トロイの木馬を作成・頒布したこと自体を罪に問うのが難しい状況でした。そのため、著作権法違反と名誉毀損が問われたわけです。

量刑については以下のように説明されています。

量刑については、名誉毀損行為と著作権侵害行為を繰り返していたことについては、被告人の責任は重大であり、罰金ではなく懲役を課すことが適当であると判断したと説明。一方で、捜査の過程で被告人は謝罪や反省の態度を示していること、Winnyは今後使用せず、ウイルスも作成しないと述べていること、社会的に一定の制裁を受けていることなどを理由として、懲役2年・執行猶予3年としたと説明した。

以上、Winnyの「原田ウイルス」作者に、懲役2年・執行猶予3年の有罪判決 より

ということで執行猶予がついたのですが、その執行猶予期間中にイカタコウイルスが作られたわけですね。その挙動については以下の記事が詳しいです。

イカタコウイルスも、一般的に知られているのは単に画像を上書きする挙動ですが、システムファイルは壊さないとか、複数の不正プログラムで構成されているとか、外部に情報を送信するとか、細かい部分ではいろいろな機能があるようです。細かく見ると原田ウイルスとは違う部分もあるようですが、大きな違いはないとも言えるでしょう。

ぶっちゃけて言えば、「トロイの木馬をばらまいたら何故か著作権法違反と名誉毀損の罪で有罪になったので、今度は著作権法違反と名誉毀損を問われないようにオリジナル画像で同じことをやった」という話です。著作権法違反や名誉毀損に問う余地がないため、検察側は器物損壊を持ち出しましたが、かなり無理がある印象です (それでも一審では有罪になりましたが)。

この作者の行動は法の不備を突こうとしたもので、司法への挑戦とも受け取れます。それも執行猶予期間中にやっているわけで……こういう人と一緒に仕事をしたいかどうかと言われると、どうなんでしょうね。少なくとも、この作者の行為と、Jailbreakとを同一視するのはちょっと無いかなと思います。Jailbreakは高度なスキルが必要ですし、犯罪でもないわけですから (民事で訴えられる可能性はありますが、それは犯罪ではない)。

※なお、現在では刑法に不正指令電磁的記録に関する罪 (いわゆるウイルス罪) が新設されています。今後同じことをすれば、トロイの木馬を故意に作成・配布したこと自体で罪に問われます。

しかし、可愛い魚介類のイラストはなかなかのクオリティであるように思います (参考: タコイカウイルス 感染画像集 (copains.idns.jp))。その絵の才能をもっと他のことに生かすこともできたでしょう。真の意味での「才能の無駄遣い」で、非常に残念なことではあると思います。

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