規格の策定者が解説する JIS X 8341-3:2010 - ウェブアクセシビリティ基盤委員会の紹介、JIS X 8341-3:2010 入門
2010年9月2日(木曜日)
規格の策定者が解説する JIS X 8341-3:2010 - ウェブアクセシビリティ基盤委員会の紹介、JIS X 8341-3:2010 入門
公開: 2010年9月11日13時40分頃
今日は会社をさぼって「規格の策定者が解説する JIS X 8341-3:2010 (www.ciaj.or.jp)」というセミナーに行ってまいりました。参加費4000円ですが、3150円の規格票が付いてくるので実質参加費は850円というなかなかお得なセミナーです。
※もっとも、個人的には8月20日の時点で規格票はダウンロード購入済みですが。
まず、午前中は東京女子大学の渡辺隆行教授による、「ウェブアクセシビリティ基盤委員会の紹介、JIS X 8341-3:2010 入門」というお話。以下、だらだらとメモ。
ウェブアクセシビリティ基盤委員会の紹介
改正版JIS策定の背景
- 1999 WCAG1.0
- 2004 INSTAC WG が 8341-3を策定、公示
- 2008 WCAG2.0 JIS X 8341-3 の成果も取り入れられている
- 2010 JIS X 8341-3:2010 策定、公示
2004年版の取り組み
- 2003年夏まで: W3C と協調しない独自規格路線
- 2003年後半: WCAG1.0を参考、WCAG2.0草案も先取り
- 2004年 JIS 公示。しかし、試験については考えられていなかった (JISマークをつけられるのかどうかという問題)。
2005年からの取り組み
- WCAG WG との協調し、JIS の成果を WCAG2.0 にフィードバック (漢字文化圏の問題など)。サマータイムの朝5時からミーティングを行ったりした。
- WCAG2.0と国際協調
- 試験を行えるようにする
WCAG2.0と協調する理由
- アクセシビリティの世界に de our standard (ISOなど) はなく、de fact standard を作っているのはW3C
- 日本独自規格を作ると……
- 制作者: 日本向けと世界向け複数の規格に対応する必要がある、非関税障壁
- ユーザー: 海外製の支援技術を国内で使うことが難しくなるかもしれない
- 国際協調すれば、オーサリングツール、評価ツールも一つの規格に沿えばよいことになる
課題
- WCAG2.0 は完成度が低い、文章が悪い
- WCAG2.0 は技術非依存、利点でもあるが分かりにくい
- 解説資料や技術資料がないと分かりにくい。WCAG2.0は補助文書を公開しているが、JIS は規格しか作ることができない。規格は簡単には書き換えられない
- 支援技術の問題
- 日本のユーザーは少ない、英米圏よりも遅れている
- WCAG2.0のTechniquesに日本の支援技術は対応しているのか? 例: img の alt には対応しているが longdesc にはほとんど対応していない
- WCAG2.0 のアクセシビリティ・サポーテッド情報に相当するものを作らなければならない→INSTAC の WG では作成できなかった
- 規格の限界の問題
- 高齢者・障害者配慮設計指針 = ネジの規格とは異なる
- 工業製品ではなくWebというメディアの世界
- JISの枠組みを超えた活動が必要
基盤委員会の立ち上げ
- INSTAC WGの後継活動として、日本の現場で改正版JISを適用する際に必要な活動を支援する組織
- 公的団体 情報通信アクセス協議会ウェブアクセシビリティ作業部会 を再立ち上げ
- 2010/8/4からウェブアクセシビリティ基盤委員会として活動を強化
- 3つのワーキンググループ、WG1=理解と普及、WG2=実装、WG3=試験、を担当
- 膨大な資料を公開。特に Understanding は規格の理解に必須
- 試験可能になった。JIS Q シリーズによる適合性評価の他、試験を行った場合の「準拠」、行わない場合の「配慮」表示が可能。
JIS X 8341-3:2010 入門
アクセシビリティとは
- アクセシビリティ: 様々な能力を持つ最も幅広い層の人々に対する製品、サービス、環境又は施設のユーザビリティ
- ユーザビリティ: 特定コンテキストにおいて、特定のユーザによって、ある製品が、特定の目標を達成するために用いられる際の、効果・効率・ユーザの満足度の度合い
- 多彩なユーザ: 主に高齢者、障害のある人および一時的な障害のある人
- 特別な配慮を必要としないユーザ
- 感覚機能に配慮すべきユーザ 視覚、視力、聴覚、聴力
- 運動機能や体格に配慮すべきユーザ 車いす、手が使えない、左利きetc
- 認知機能に配慮すべきユーザ 初心者、外国語
- これらのユーザが知覚し、理解し、操作できること
- WCAGはコンテンツについてしか言っていないが、オーサリングツール、評価ツール、UA、支援技術の対応がなければアクセシビリティは成立しない。例:longdesc属性をつけても使われない、普通のにブラウザには見出しジャンプ機能がない、など。
日本工業規格
- 大事なのは全員が同じ規格を使うこと
- ネジの大きさに正解はない、同じ大きさであることが重要
JIS X 8341-3:2010の特徴
- WCAG2.0の利点
- テスト可能な達成基準
- 特定の技術に依存しない (新技術にも対応できる)
- 視覚障害以外にも配慮
- サイト開発の各プロセスで注意すべき事項を記載 (箇条6)
- 欧州の考え方も取り入れた試験 (箇条8)
用語定義
- JIS規格の用語定義は、JISの世界全てで共通の用語となる
- WCAG2.0の用語は用語と言うより規定ではないかと思われるものを含むため、整理して減らした
- JISの規格票ではリンクを張れないし下線も引けないため定義された用語を明示できていないが、分かりにくい用語はたいてい定義されているので用語の定義を参照すると良い
- Level → 達成等級
- 等級Aは最低限のもの
- 公共分野では等級AAを目指すべき
- AAAを全て満たすのは難しい
- robustの訳語は他のJISと合わせたもの
- 箇条7がWCAG2.0のガイドラインに相当し、7を取るとそのままWCAG2.0の番号になる
errata
規格票51ページの表、2004年度版の個別要件に 5.2c) とあるのは 5.9e) が正しい
続きます……「規格の策定者が解説する JIS X 8341-3:2010 - JIS X 8341-3:2010 の実装方法」。
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