覆面
2003年6月26日(木曜日)
覆面
記名投票の結果は25対25の可否同数で、議長裁決で否決した。
覆面問題は、自民系会派や無所属会派が「議場にふさわしくない」「表情が見えない」などと主張。サスケ県議が所属する自由系会派や共産は「覆面姿で選挙運動をして当選したのだから規制はできない」などと容認する考えを示し、意見は真っ二つに割れていた。
こういう話を聞くと思い出すのは、大学でのある出来事です。
教養科目の物理でしたか、正確な科目名は覚えていませんが、B棟の二階で行われている講義がありました。その教授は、良く言えば礼儀に気を遣う方だったようです。あるとき、男子学生が帽子をかぶったままでいたのですが、その方は講義前に毅然として「帽子を取れ」と言われ、その学生が帽子を取るまで講義を始めようとしなかったことがあります。
そんな方の講義も終わりに近づいた、ある日。
その講義に、帽子をかぶった女子学生が出席していました。教授はあのときと同じように、「帽子を取りなさい」。
その場にいたほぼ全員の目が彼女に注がれます。彼女はしかし、帽子を取ろうとはしませんでした。
教授は同じ言葉を繰り返します。彼女は、おもむろに帽子に手をかけ……そのまま俯きました。肩が、小刻みに震えています。彼女が泣いていることは、誰の目にも明らかでした。彼女がどうして帽子をかぶっているのか、どうして帽子を取ろうとしないのか、その理由も、今や明白でした。
教授も悟ったのでしょう。最後にこう言って講義を始めました。「事情があるなら、良い」と。
講義は始まりましたが、そこには苦い空気が漂っていました。
……だから、私は思うのです。顔面に大きな火傷を負って皮膚移植を受け、医療用のマスクをかぶっているような人も、「議場にふさわしくない」「表情が見えない」という理由で拒否されるべきなのだろうかと。最終的に否決されたとは言え、可否同数という結果は、岩手県の人々の半数がそれを支持しているということを意味しているのでしょう。
そう思うと少しだけ、あのときの苦さがよみがえるのでした。
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