ウェブサイトに必要になるお金
2011年11月11日(金曜日)
ウェブサイトに必要になるお金
公開: 2011年11月19日15時10分頃
こんな話題が……「原子力安全庁のウェブサイト作成予算は1億4千万円 (it.slashdot.jp)」。
内容がはっきり分からないので何とも言えないところもありますが、省庁のサイトを新規に構築して1年間運用するとして、予算が1億4千万円というのは十分にあり得る話でしょう。
最近はほとんどの案件で何らかのCMS導入が絡んできます。このサイトでもCMSを入れるのだろうと思いますが、CMSは規模によって金額が大きく異なります。エンタープライズ系のCMSを導入する場合、ライセンス費と開発費と保守費を合わせて1億を超えるというのも珍しい話ではありません。
もっとも、原子力安全庁にそのような規模のCMSが必要なのか、という問題はあります。省庁系の案件では、RFPに異様に厳しい要件が書かれているせいで高いCMSが選定されてしまう、などというパターンも多いです。CMSもいいけど、もっと他のところにお金を使った方が良いのでは……と感じることは結構ありますね。
※CMSなんかは中央でひとつ入れて共通で使わせるようにすれば良いのではないか、という意見もありますが……コンテンツの性質が違ったりもするので、なかなか難しい面もあるようです。
では、CMS以外ではどの程度の費用がかかるものなのでしょうか。
そもそも、ウェブサイト構築にはどのようなタスクがあって、どのくらいのお金がかかるのか、一般にはあまり知られていないのかもしれないですね。それなりの規模の組織のウェブサイトをつくるには、個人ブログの開設とは全く異なるプロセスが必要です。
とりあえず、サイトの大枠部分ができるまでのプロセスをざっと紹介してみます。なお、これは私の (うちの会社の) やり方なので、他の方はまた違うやりかたをしているかもしれません。
サイト戦略と要件定義
まず、要件定義を行います。このサイトの目的は何で、プロジェクトで何を実現する必要があるのか、といったことを決めます。
要件定義にかかる時間は、やりたいことがどの程度決まっているかによります。あまり決まっていない場合、要件定義と前後して「サイト戦略定義」のようなプロセスを入れることもあります。ウェブはあくまでコミュニケーション手段のひとつに過ぎませんので、組織の行動戦略全体の中でウェブをどこに位置づけるのか、ウェブを通じて何を実現するのか、といったところから決める必要があります。
要件定義は、スムーズに行けば1~2週間で終わることもありますが、だいたい1ヶ月くらいかかります。場合によっては数ヶ月かかる場合もあります。「やりたいことははっきり決まっている」と言って要件定義を軽視する方もいますが、そういう方は要注意。そういう時に限って要件がコロコロ変わったりして、プロジェクトがどんどん延びていくことが多いです。
サイト設計・情報設計
サイトの目的やプロジェクトの目的が決まったら、サイトの設計に入ります。まず、このサイトにどのような情報を掲載する必要があるのかをざっくりと洗い出します。このとき、サイトの目的がはっきり決まっていないと、何が必要で何が不要なのか判断できなくなります。
ある程度決めたら、構成を決めていきます。情報の括りや分類などを考えながら、「ハイレベルサイトマップ」と呼ばれるサイト構造の概要を作成したりします。このあたりは一見簡単そうに見えて、実のところなかなか難しいタスクです。何と何をどういう順番で並べると分かりやすいのか、ある情報をどこに関連づけると迷わないか、といったことを考えつつ整理していきます。
サイトマップがある程度できたところで、ワイヤーフレームを作成していきます。ワイヤーフレームというのは、各ページの枠組みで、どこにどのような情報が入るのか、というアタリを付けたものです。具体的なコンテンツやビジュアルまでは決めませんが、主要なナビゲーション部分の要素はこの時点でほぼ決定します。
情報設計のプロセスは、サイト規模にもよりますが、やはり1ヶ月程度はかかります。場合によってはもっとかかることもあります。
基本ビジュアルデザイン
ワイヤーフレームが完成したところで、ビジュアルデザインに入ります。といっても、具体的なコンテンツはまだ決まっていないので、ひとまず大枠の部分についてデザインを進めることになります。
まず、デザインの方向性を決定する必要があります。ここでもサイトの目的が重要で、サイトの目的によって何が重視されるのかが違ってきます。たとえば、確実・堅実なイメージなのか、やわらかい・親しみやすいイメージなのか。要件でその辺りまで詰めていない場合は、ここであらためてキーワードを抽出したり、ムードボードを作成したりして、方向性を探ることもあります。
方向性が決まったら、グリッドを決めたり、カラースキームを決めたりしながらビジュアルデザインを進めていきます。トップページ、主要インデックスページ、末端ページなど数ページについて、実際にビジュアルを作成してスタディしたりします。
このプロセスは社内で詰められる部分が多いので、意外にスムーズです。規模によって1週間~1ヶ月弱程度でしょうか。方向性が決まらないと延びることがありますが、決まってしまうと意外に早いです。
……と、大枠の部分ではこんなところです。
あとはコンポーネントデザイン、コンテンツ仕様作成などを経て、詳細デザイン、マークアップ、システム実装などの実装タスクに入っていきます。実装の期間はサイト規模に依存するのでピンキリです。1週間で終えることもあれば、3ヶ月を超えることもあります。
ちなみにCMSがオーサリング機能を備える場合、個々のページのマークアップは必要ない場合もあります。しかし、その場合にはテンプレートを作らなければならないので、実装の工数は発生します。また、データの入力も必要です。たまに「CMSを入れると制作工数が大幅に削減できる」と思っている方が (主に経営者に) いらっしゃいますが、そうでもないので注意しましょう。CMSがあると後の運用は楽になることが多いですが、初期構築の負荷はそれほど減りません。むしろ、一度マークアップしてからそれをテンプレートとして実装しなおす必要があったりするので、実装の工数は増える場合も多いです。
それから、必要に応じたシステム開発、サーバの構築と保守があります。これがモノによってまた高いわけです。どこかその辺のレンタルサーバにでも置いて良いなら安く済みますが、そういうわけには行かないでしょう。
そして、サイト完成時の検証をどのくらいやるのか。JIS X 8341-3:2010で規定されているアクセシビリティの試験や、脆弱性診断などを実施するのだとすると、それにもかなりのコストと期間がかかります。役所系だと要件に入ってくることは多いでしょう。
と、ここまでが初期構築の話。それとは別に、運用費がかかります。サーバやドメイン、証明書の維持費がかかるのはもちろんですが、サイトを更新していくのには人件費を含めたさまざまな費用がかかるわけで、それも予算に入れておかなければなりません。
原子力安全庁は新しい庁なので、既存の積み上げがほとんどありません。原子力安全庁とはどういう組織なのか、そのウェブサイトはいかにあるべきで、どういうポリシーを持たなければならないのか、といったところから決める必要があるので、要件定義や情報設計には時間がかかるでしょう。そんなこんなをちゃんと見積もると、構築と一年間の運用で、3,000万円~5,000万円くらいかかってもおかしくないのではないでしょうか (規模によりますが)。
あとはCMSを含むシステム系とインフラの費用で、ここが高いか安いかはちょっと微妙なところです。ウェブだけで考えると高い気もするのですが、自前のサーバを買ってインフラも一から作って……とすると、かなりかかりそうだとは思うのですが。
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