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A3 その1 : A,A2からA3への流れ

2011年9月10日(土曜日)

A3 その1 : A,A2からA3への流れ

公開: 2011年9月18日1時25分頃

読み終わりました。2011年7月に第33回講談社ノンフィクション賞に輝いた作品。

前作に当たる「A (www.amazon.co.jp)」「A2 (www.amazon.co.jp)」はオウム真理教を描いたドキュメンタリー映画でしたが、A3は映像作品ではなく、書籍になりました。

書籍としては独立した作品ではあるものの、前作であるAとA2を知らないと理解しづらい部分があると思います。これはあくまで私の理解ですが、AからA2、そしてA3へと受け継がれるテーマの流れがあります。

まず、最初の「A」が目指したのは、先入観を捨てて純粋にオウムを知るということ。そこで見えてきたのは、末端の信者たちが、我々と何ら変わらない普通の人のように見えるということです。あるいは、むしろ普通よりも間の抜けた面を持つ人々であり、凶暴性はあまり感じられないということかもしれません。

いずれにしても、「A」を見終わった後わき上がるのは、「何故、このような人達があのような事件を起こしたのか」という疑問です。

続く「A2」では、オウムと周りの人々の関わりをテーマにしつつも、「何故あのような事件を起こしたのか」という点に迫って行きます。「麻原があなたにサリンの袋を突けと命令したら、あなたは突くか」という質問に対し、「意地悪な質問」と言いながらも、結局は回答する信者。

信仰を持つ人間が、信仰の対象となっている者から命令を受けたとき、それを拒否できるわけがない。できるのなら、それは信仰ではないし、宗教でもない。ある意味予想どおりであり、ある意味衝撃的な回答です。ショックなのは、この回答が対象を「オウム」に限定しておらず、「宗教」「信仰」という一般的な言葉を使っていることです。

「A2」にはもうひとつ印象的なシーンがあります。後半、オウムに街宣を欠けていた右翼団体が神事に参列するシーン。これはオウムとは関係のない行為のはずですが、それが何の説明もなしに挿入されていることには、強い意図を感じます。

こういったシーンを通じて、「A2」では、オウムの信者は教祖の命令に従うこと、それはオウムに限らないことを示唆しています。しかしこれは、「何故あのような事件を起こしたのか」という問いの答えとしては不十分です。信者が命令に従うとしても、反社会的な命令がなされなければ問題ないはずだからです。命令した教祖の側の論理が見えなければ、その問いに答えることはできないでしょう。

A2の後に残される疑問は、「なぜ教祖は殺人命令を下したのか」ということ。そして、その残された部分に迫るのが本書「A3」です。

……と、上流にこういう前提があり、その下流に位置するのが本書である、というのが私の理解です。著者が今まで何を追ってきたのかを知らずに読むと、著者の考え方やスタンスが理解できない可能性があると思います。

少し長くなりましたので、「A3」本編の感想はまた別途。

※続きます: A3その2: 輪廻転生の思想

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