天使のナイフ
2008年12月5日(金曜日)
天使のナイフ
公開: 2008年12月6日2時5分頃
読み終わったのでメモ。
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うーん、まあ、面白かったといえば面白かったのですが、ほとんど予想通りの展開で、いまいち盛り上がりませんでした……。
それから、あくまで個人的にですが、主人公の桧山にはあまり共感できませんでした。
そもそも、刑事裁判や刑罰は被害者のためのものではありません。たとえば、スピード違反や大麻の吸引のような行為を考えてみると、被害者が不在でも刑罰が科される場合があることが分かるでしょう。刑罰は被害者を慰めるためのものではなく、被告人本人と社会のためのものです。被害者が刑事裁判に救済を求めようとするのは、心情としては理解できますが、それは単なる便乗に過ぎません。本来は筋が違うのです。
では被害者は救済を求められないのかというと、そうではありません。被害者には、民事訴訟を起こして加害者に賠償を求める権利があります。もちろん、そこでは加害者を殺したり苦痛を与えたりすることは許されず、主に金銭での賠償しか得られません。それではとても納得できないかもしれませんが、そういうルールなのです。まずは、ルールの中で出来る限りのことをするべきだと思うのです。
しかし桧山は、その民事訴訟を断念しています。訴訟がハイリスクローリターンだというのは作中でも語られていますし、それはそうだろうと思うのですが、桧山が自らの意思で請求を放棄したという事実は大きいと思うのですね。ルールの中でできることを全てやった上で、ルールが悪いと主張するなら分かります。しかし桧山はそうではないでしょう。
……まあ、民事をやって加害者や親族と接触していたらこの話は成立しませんので、仕方ない設定だとは思うのですけどね。意図的に桧山がそういうキャラクターとして描かれている面もあるとは思うのですが、それはそれで、祥子の過去を知ったときの落差、のような描写がちょっと物足りないような。
それからもう一つ気になったのが、終盤で犯人(?)が言う「無期懲役でも10年で出られる」という話。これは誤解です。
無期懲役は本当に無期懲役なので、刑期は一生終わりません。確かに文言の上では10年で仮釈放もあり得るのですが、それはあくまで論理最短値です。実際の運用では20年~40年程度と言われていますし、50年以上仮釈放されないケースもあります。
また、仮釈放された場合でも、刑は終わっていません。それはあくまで「仮」釈放にすぎませんから、保護観察がつきます。引っ越しも旅行も自由にはできませんし、何かすれば刑務所に戻されます。それが一生続くのですが、そこまで分かった上で言っているのでしょうか?
まあ、言ったのは無知な少年なので、この台詞が出てくること自体がおかしいわけではないと思います。しかし、本作のテーマから言って、この台詞をノーフォローで流してしまうのはどうかと思うのですね。
※余談ですが、法務省もこういう誤解を解く努力をしないといけないと思うのですよね。刑罰の重さが正しく理解されていないと、本来の犯罪抑止効果が得られないわけですし。
あと、ラストがいまいち納得できなかったり。どんでん返しとしては面白いと思うのですが、弁護士の行動としてはちょっと無理があるのではないかと感じてしまいました。まあ、弁護士にもいろいろな人がいますが、この人の行動としてはちょっと納得できない感じがしました。
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