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2012年2月23日(木曜日)

ワタミの従業員はなぜ自ら辞めなかったのか、という問い

公開: 2012年3月4日17時40分頃

ワタミで働いていた方が自殺し、それが労災として認定されたというニュースが出ています。

審査官は、深夜勤務で時間外労働が月100時間を超え、休憩や休日も十分に取れなかったと指摘。不慣れな調理業務に就いていたことにも触れて、「業務による心理的負荷が主因となって精神障害を発病した」と認定し、業務と自殺の因果関係を認めた。

以上、社員の自殺、労災認定 入社2カ月の女性 より

そして、それに対するワタミ社長のツイートが話題に。

労災認定の件、大変残念です。四年前のこと 昨日のことのように覚えています。彼女の精神的、肉体的負担を仲間皆で減らそうとしていました。労務管理 できていなかったとの認識は、ありません。ただ、彼女の死に対しては、限りなく残念に思っています。会社の存在目的の第一は、社員の幸せだからです

以上、https://twitter.com/watanabe_miki/status/171926030666309632 より

無難なツイートですね……「労務管理 できていなかったとの認識は、ありません。」の一文さえなければ。

「労務管理できていなかったとの認識は、ありません」ということは、労働実態をきちんと把握して管理していた、と主張していることになります。そして審査官は「深夜勤務で時間外労働が月100時間を超え、休憩や休日も十分に取れなかった」と認定しているわけですから、そのような状況を把握していて、しかし意図的に (故意に) そのまま働かせ続けた、という主張をしているように読めます。それで良いのですかね?

ところで、このツイートに関連するコメントなどを見ていると、「そんなにきついなら辞めれば良いのに」「なぜ辞めなかったのか」といった意見をちらほら見かけます。

なぜ辞めなかったのか。この点には、「人はなぜ働くのか、何のために働いているのか」という根源的な問いが絡んでくるのではないかと思います。

世の中にはきっと、「お金のために仕方なく働いている」という人もいるのでしょう。そういう人は、無理を感じればすぐに辞めるのでしょうし、自分にできる範囲で効率よくお金を稼げる職を選ぼうとするでしょう。まっとうな仕事よりも詐欺の方が稼げるなら、迷わずそちらを選択する……という人も、世の中には確実に存在します。

しかし、多くの人はそうではありません。お金が稼げても嫌なことは嫌だといったり、お金がもらえなくても仕事をする、という人は大勢います。人のためであったり、何らかの理念のためであったり、そういったお金ではない要素のために人は働きます。

つまり、重労働で低賃金であっても、その人が嫌々働いているとは限らないということです。

ワタミは、経済誌でも良く取り上げられています。たとえば、トップが明確な理念を持ち、従業員のモチベーションを高く保っているとか、そういった文脈で「優良企業」として紹介されることが多いようです。

企業の理念に共鳴した人は、高いモチベーションを持って自主的に働くようになるでしょう。そういう人は企業にとっても都合が良いので、優遇されますし、手本にもされます。そして、何かを犠牲にしながら、自主的に、喜んで働きます。

※実際になくなった方がそうなのかは分かりませんが。

これは一見すると、企業にとっても労働者にとっても望ましい、Win-Winの関係に見えます。少なくとも短期的にはそう見えます。しかし、そのような人は、時に死ぬまで働き続けてしまいます。そのとき失われるものはとても大きく、それが続けば、人も、企業も、そして社会も、少しずつ壊れていってしまうでしょう。

だから、誰かが働き過ぎにストップをかけなければならないのです。

「従業員はなぜ自ら辞めなかったのか」という疑問は、ある意味当然の疑問ではあると思います。しかし、「使用者はなぜ止めなかったのか」という点のほうがずっと重要です。トップが「労務管理できていた」と主張するのであれば、それはなおさら厳しく問われなければならないでしょう。

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