2011年4月15日(金曜日)
軽水炉のボイド効果とは何か
公開: 2011年4月17日19時0分頃
なかなか凄い話ですね……「武田邦彦氏の過去の発言を検証してみる (news.livedoor.com)」。
「日本の軽水炉はチェルノブイリの黒鉛減速炉と異なり、負のフィードバック効果があるので核反応の暴走は起きにくい」ということ自体は良く言われていましたし、それ自体は間違っていないと思います (福島第一原発でも核分裂連鎖反応が暴走したわけではありません)。
私が問題だと思うのは、自称専門家であるはずの武田氏が、そのメカニズムを理解していない (少なくとも2007年当時は理解していなかった) らしいということで。
特に日本の原子力発電所は「水」を使って炉を冷やしているが、水は「核反応が進めば進むほど反応を止める方向に行く(負のボイド効果)」という特徴を持っているので、水素爆発などは別にして原子炉自体は核爆発させようとしても爆発しない。
以上、原子力を考える (2) より
ここまではまあ間違っていないと思います。「ボイド効果」という言葉が出てきたことに注目しておきましょう。問題は、その次の記事です。
爆発しない原子力発電所というと「軽水炉」である。水を使って燃料を冷やし、熱を取り出すこの簡単な原子炉は安全である。なぜ安全かというと「温度が上がると中性子を吸収する」という水の性質を利用しているからである。
何かの間違いで原子炉が原爆のような状態になることがある。そうなると核反応が進み、ドンドン温度が上がる。そうすると水が中性子を吸収して反応を止める。つまり「自動安全装置」が水なのである。実に簡単で素晴らしい。よく水がそんな性質を持っていたものだ。
以上、原子力を考える (3) より
これは間違いです。「温度が上がると中性子を吸収する」というようなことはありませんし、むしろ逆です。先の記事で自身が使った「ボイド効果」という言葉の意味を理解されていないのでしょうか。
ボイド効果の「ボイド」というのは英語の "void" で、これは「空」とか「無」といった意味です。ここで言うボイドは、水の中に生じた気泡のことを意味します。水が高温になると気泡 (ボイド) が生じて密度が下がり、水の果たす機能は低下します。これがボイド効果です。つまり、温度が上がると、水が中性子を吸収する効果は低下するわけで、武田氏が言っているのとは正反対の効果になります。
では温度が上がると暴走するのか、というとそうではありません。水には中性子を吸収する効果もありますが、中性子を減速する効果もあります。ウランを効率よく核分裂させるためには中性子を減速する必要があるのですが、軽水炉ではその減速に水を利用しています。軽水炉では、水がないと核分裂連鎖反応が起きないわけです。温度が上がると、ボイド効果によって減速の効果が落ちるため、その結果として核反応が抑制されます。
ということで、「温度が上がると、ボイド効果で中性子が減速されなくなって反応が抑制される」というのが正解です。些細な違いのように見えるかもしれませんが、この点の理解が間違っているといろいろ支障があるはずです。中性子が減速されなくなるだけなので、高速中性子で核分裂するプルトニウムの反応は抑制されなかったりもします。
※もっとも、核分裂連鎖反応が止まっても崩壊熱は出続けるので、それを冷やせないと炉心が融けてしまったりするわけですが。
……他にも色々と気になるところはありますが (爆縮の技術が無くてもプルトニウム型原爆が作れると思われているっぽいとか)、細かい間違いを挙げていくときりがなさそうですね。
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