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2011年1月8日(土曜日)

空飛ぶタイヤ

公開: 2011年1月10日22時45分頃

librahack (岡崎市立中央図書館事件) 方面で推奨されていた「空飛ぶタイヤ」、読み終わりました。

自動車会社のリコール隠しと戦っていくお話。フィクションですが、作中の設定や出来事はかなりの部分が実話をベースにしています。作中の「ホープ自動車」は架空の企業ですが、財閥系のホープ重工から分離した会社で、グループのシンボルマークは楕円を三つ重ねた「スリーオーバル」、一般消費者向けの主力は四輪駆動車、3年前にもリコール隠しが発覚。そして今回、タイヤ脱落事故で主婦が死亡……という設定です。この設定で、具体的な事件を連想しない人はほとんどいないでしょう。

作中の「T会議」も、「マルT対策本部会議」という名前で実在していたものですね。

とはいえもちろんフィクションなので、実際の事件とは異なる展開になっている部分もたくさんあります。特にラストの展開は……これはまあ、実際読んでいただいた方が良いと思いますが。

印象に残ったところをいくつかメモしておきます。

ホープ自動車の体質

財閥系企業で選民思想が強く、顧客よりも社内政治が優先という体質、いわく「罪罰系迷門企業」。ホープ自動車は一般利用者向けのクルマも作っていますが、基本は企業間取引(BtoB)で、しかもグループ企業間の取引がメインなので、一般顧客を置き去りにしても問題が起きない(と、思われている)のかもしれません。

JST失敗知識データベースにもこんな記述があります。

また、1996年に米国現地工場でセクハラ問題、1997年には総会屋に対する利益供与事件、2000年のリコール隠し事件とコーポレートガバナンス(企業統治)を揺るがす事態が続発してイメージ低下から販売が低迷しても、三菱グループは常に三菱自動車を支えてきた。三菱ブランドの企業はつぶせないという強い思いである。それが三菱自動車自身の社会的責任の所在をあいまいにしてきた。一方、資本的にも東京三菱銀行と三菱商事から融資と投資を受ける三菱自動車は、経営上その顔色をうかがう面があった。

以上、JST失敗知識データベース > 失敗事例 > 三菱自動車のリコール隠し より

このあたりは本作でもかなり生々しく描写されています。

マスコミの役割

ストーリー中盤で「週刊潮流」の記者が取材に動き始め、話はその記事を中心に展開していきます。記事が出れば自体が大きく動くのではないかという強い期待、その期待に全てを賭けて物事が動いていく様はある意味圧倒的で、マスコミの力への期待が非常に強いことが分かります。そして、逆の面に存在する無力。

岡崎市立中央図書館の事件でも、朝日新聞が果たした役割は大きいと思います。

コンプライアンス

「コンプライアンス」という言葉が何度も出てきますが、これが本書のテーマのひとつになっているように思います。面白いことに、この言葉はもっぱらホープ側が口にするのですね。

ホープ銀行が「コンプライアンス」を理由に貸しはがしを行い、コンプライアンス違反が強く疑われるホープ自動車に支援しようとするダブルスタンダード。コンプライアンスって何だろうね、と考えさせられます。

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